INTRODUCTION

Early Bronco

フォード・ブロンコは、ひとつのレクリエーションアイテムとして急成長を見せていたアメリカの4WD車市場における、Jeep・CJ-5やInternational Harvester・Scoutの対抗馬として1965年の8月に発表され、1966モデルとして販売が開始されました。その後1996年まで販売されたフォード・ブロンコの30年という長い歴史の中でも、1966~1977年に生産されたファーストジェネレーションは〝アーリー・ブロンコ〟という愛称で親しまれ、今でも高い人気を獲得しています。〝ブロンコ(野生馬の意)〟の名のごとく、道を選ばずに荒野を走り回れるコンパクトな4WDとして、今も昔も注目度が高かったのです。

introduction_earlybronco_02最も初期のブロンコは、パワーステアリングやオートマチックトランスミッションの設定がなく、とてもスパルタンな性格付けがなされていたクルマでした。標準で搭載されたエンジンはフォード・ファルコンのラインナップからデリバリーされた直列6気筒エンジン。170cidの排気量を持ち105hpを発揮するエンジンには、フォード3.03・3速マニュアルトランスミッションが組み合わされ、シフトレバーはステアリングコラムにマウントされていました。1966年の3月には200hp/282lb.ft.を発揮する289cidのV8もオプション設定されましたが、こちらも搭載されるミッションは3速マニュアルのみ。ただし、直6とV8エンジンでギア比の設定が変えられていて、直6エンジンに組み合わされるミッションはV8エンジンのものよりローギアードな設定となっていました。トルク不足をギア比で補っていたということでしょう。ちなみに、トップギアはどちらも1.00の設定です。

introduction_earlybronco_03ブロンコのボディですが、全長152.1インチ(3,863mm)、全幅69.1インチ(1,755mm)、全高71.2インチ(1,809mm)、そして92インチ(2,336mm)のホイールベースと、アメリカ車の中では比較的小柄といえるサイズです。カタログモデルとして用意されていたボディスタイルは、取り外し可能なルーフを持った4人乗りパッセンジャーワゴン、ハーフルーフもしくはオープントップとなるスポーツユーティリティ(ピックアップ)そして2or4人乗りが選択できたフルオープンのロードスターの3タイプでした。ロードスターにはルーフはおろかドアすらも標準設定ではありませんでしたが、ハーフドアやビニルトップがオプションアイテムとして入手可能でした。しかし、ロードスターというオプションはあまり一般的ではなかったせいか、残念ながら1968年にラインナップから外されたことで生産台数も少なく、現存している個体はコレクターズアイテムとなっています。

introduction_earlybronco_04ブロンコには、ベーシック、スポーツ(1967年から設定)、レンジャー(1972年後半から設定)の3グレードが設定されていました。これらの大きな違いはトリムのパッケージングです。ベーシックはその名のとおり〝素〟のブロンコです。ホワイトにペイントされたグリルやヘッドライトベゼル、同ホワイトの前後バンパー、スチールホイールなどシンプルなスタイルが特徴となります。ミドルグレードとなるスポーツは、ベーシックグレードにボディサイドモールやクロームバンパー&ヘッドライトベゼル&テールランプベゼル、グリルのフォードレター、スポーツエンブレム、シルバーにペイントされたグリル、ハブキャップが装備されるなど、より上品な仕上りとなっています。そして、最上級グレードとなるレンジャーですが、スポーツグレードをベースにインテリアの装飾がより華やかに。その内容は、インテリアがブルー、グリーン、タンのいずれかでカラーコーディネイトされるというもの。シートやカーペット、テールゲート&リアタイアやハウスカーペット、ダッシュパッドまでもが同色での仕上りとなります。さらに、シート表皮やインナートリムにはチェック柄のクロスが使われるなど、作りも凝ったものでした。エクステリアでは、ボディサイドモールがレンジャーストライプに変更され、スペアタイヤには専用のカバーが使われます。

introduction_earlybronco_05この他、ブロンコには1972~74&76年に特別仕様車が存在していました。その名はエクスプローラー。ベーシックグレードをベースに、チェック柄のクロス生地を用いたシート表皮やカラードカーペット&インストルメントパネル、ドアトリムパネルなどが追加されていました。
さらに、1977年にだけ設定されていたのがSpecial Decor Croup(SDG)です。このパッケージングでは、ブラックアウトされたフロントグリルやボディ同色ペイントとされたハードトップ、エンジンフードからボディサイドにかけて入っているデコールが大きな特徴となります。
ブロンコには都合5タイプのパッケージングが存在していましたが、今レンジャーやエクスプローラーパッケージ、SDGはかなり希少な存在となり、オリジナルの状態が残された個体を見つけ出すのが困難になっています。

introduction_earlybronco_06ブロンコ登場初期からオプショナルエンジンとして設定されていた289cidのV8エンジンは1969年に302cidへとスケールアップされ、スペックも最高出力205hp、最大トルク300lb.ft.にアップ。また、スタンダードエンジンだった170cidの直6は1972年までラインナップされ、その後200cidへとスケールアップされ1974年モデルまで搭載されていました。アーリーブロンコには合計4つのエンジンがラインナップされていたことになります。
当時のフォード・ジェネラルマネージャー、ドナルド・N・フレイは、ブロンコの発表時に「ブロンコは乗用車とトラックの長所を兼ね備えたクルマだ」とコメントしています。ブロンコはファミリーセダンやスポーツロードスターとしても使える一方で、除雪車、農場や街中のパトロール車両としても活躍していました。また、CJ-5やScoutをライバルとしていたブロンコのフロントサスペンションにはコイルスプリングが使われています。今でこそSUVにもコイルスプリングが普通に使われていますが、当時の四輪駆動車としては画期的なことといえます。ファミリーカーとしての快適性が考慮された結果でしょう。
ちなみに、リアは他車同様のリーフリジッド式です。乗用車としても働くクルマとしても活躍が期待されたブロンコは、発売と同時に好調なセールスを記録しました。当時は珍しかったメーカー保証(24,000マイルまたは24か月)が付けられていたというのも注目すべきポイントです。ブロンコは1996年まで生産されましたが、先述の通り1966年~1977年のアーリーモデルは今でもオフロードビークルとして、そしてコレクターズアイテムとしても特に高い人気を獲得しています。愛嬌あるフロントマスクや、小振りなボディながらもしっかりと存在感のあるデザインなど、現代においても魅力を放ち続けている車なのです。